漫画『悪の華』考察レビュー ネタバレあり 爛れたクソムシの世界

   
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こんにちは!FtXブロガーのreiji(れいじ)です!

今更感がすごいですが、押見修造先生の『惡の華』を読んだので感想と考察をお送りします。

例によってネタバレ満載。未読の方は読んでからどうぞ。

このどす黒い読後感をぜひ体験してほしい。

<1巻裏表紙より>
ボードレールを愛する、文学少年・春日高男。

ある日、彼は、放課後の教室に落ちていた大好きな佐伯奈々子の体操着を、思わず盗ってしまう。

それを、嫌われ者の少女・仲村佐和に見られていたことが発覚!!

バラされたくない春日に、彼女が求めた”契約”とは・・・!?

『惡の華』

大好きな佐伯さんの体操着を盗んだ春日くん。

その現場を同級生の中村さんに目撃され、ばらさない代わりに契約をさせられます。

春日くん自信持って。私と契約できたのは春日くんだけなんだよ

全部剥がす。春日くんのかぶってる皮、私が全部剥がす

引用元:押見修造『悪の華』①(講談社)

放課後に呼び出されてこんなことを囁かれたり、

仲村さんに突き飛ばされて佐伯さんの胸に顔突っ込んだり、

佐伯さんの体操着を服の下に着たままデート強要とかもう色々。

 

1巻だけ読むとネタ?釣り?エロ漫画?てなりますが、違います。

この漫画はもっと壮絶で深遠な漫画なんです(力説)。

正気から狂気へ。クソムシから変態へ。佐伯さんから仲村さんへ。

はじめは泣く泣く仲村さんに従っていた春日くん。

しかし彼女の激しい表層に隠された孤独に触れるにつれ、好きだった佐伯さんではなく仲村さんの方に、どうしようもなく惹かれていくことになります。

(仲村さんの深い孤独は、彼女のノートにつづられた言葉「向こう側に行けなかった。行けなかった」(『悪の華』④)に集約されています)

 

そして、教室を墨汁やチョークでめちゃくちゃに荒らし、

水泳の授業をしていた女子全員(ただし佐伯さん以外)の下着を盗み、

こちらは佐伯さん発端でしたが河川敷の秘密基地を炎上させるなど大きな事件を起こしてしまいます。

「クソムシが!!」の大合唱 第7巻 漫画史に残る名シーン

それら一連の罪がばれ、大人たちに糾弾された春日くん。

しかし、教師の口から出た言葉は、

仲村にそそのかされてやったんだろう?」でした。

 

仲村さんに引きずり込まれたのは確かです。

しかし、仲村さんの絶対的孤独に気付いた唯一の人間こそが自分であり、自分は彼女を救済し、同調し、一緒に美しく破滅しようとしていたのに。

大人たちの言葉は、春日くんにとってこれ以上ないほどの侮辱でした。

 

そして物語は、夏祭りのやぐらをジャックしたあの美しき名シーンへ。

さようなら!さようなら!すべてのクソムシども!!

死ね!!死ね!!死ね!!

この街は地獄だ!!ここで生きるのは地獄だ!!

誰も聞かない!!遠くの!!山の向こうで響く!!

あの花の咲く音を誰も聞かない!!

引用元:押見修造『悪の華』⑦(講談社)

世界を破壊しようとした仲村さんと春日君の、最後の反撃が自己破壊だったというその事実には、やりきれないものを感じざるを得ません。

なぜ仲村さんはやぐらから春日君を突き落したのか?

この疑問については、後に春日君が仲村さん本人に直接問い掛けていますが、仲村さんの返答は「さあ、わすれた」とのこと。

 

考えられる説としては、

  1. 自分だけが「向こう側」に行こうとした。
  2. 春日くんを助けたかった。
  3. 春日くんが仲村さんの中に見ていた信仰を裏切りたくなかった。
  4. やぐらの上の演説で仲村さんは既に目的を達成していた。

というところでしょうか。

真実は仲村さんのみぞ知るところです。

クソムシの世界

クソムシ側の世界。

それはある種、真っ当であるということです。

なにしろクソムシどもが世界の大多数であるから。

 

ふつーテスト全部空欄で出して教師に「クソムシが」とか言えないし、

ふつーいくら自分の価値を見つけてくれた男だからって、自分の体操着や女子の下着を盗む男に「私としよ?」なんて目の前で全裸になんてなれないし、

ふつー夏祭りのやぐらをジャックして「クソムシが!」って合唱したりしない。

その根底にあるのは、どうしようもなくグズグズの崩壊です。

 

世の中には2種類の人間しかいません。

仲村さんの行動とその裏にある絶対的孤独を理解できてしまう「変態」側の人間と、

春日君の母親のように、そこらへんにばらまかれている世俗的な言葉を切って貼った借り物の言葉で変態を非難する「クソムシ」ども。

 

ところで、佐伯さんはどっち側にいたんだろう?

仲村さんが、春日くんがいなければ、彼女はクソムシ側の世界で何も知らず気付かずに生きていっただろうか?

それとも、佐伯さんが内に抱えていた変態性と孤独とは、いつか何かのきっかけに沸騰したのでしょうか。

そして祭りの後

七巻以降は、あの祭りの日のアフターストーリーが語られます。

秘密基地炎上の犯人として自首した佐伯さんは鑑別所に送られ、春日くんは引っ越し先の高校で新たな生活を始め、仲村さんは母親のもとに引き取られて母親の働く食堂の手伝いをしていたようです。

 

春日くんは新しい生活を始めた場所で、小説を書く少女、常盤さんに出会います。

あの祭りの日を越えて、自分だけ幸せになることは出来ないと自制をしていた春日くんですが、常盤さんの純真さに次第に惹かれていくようになります。

そして、過去と邂逅するために、仲村さんの手を離してしまったあの日の後悔を取り戻すために、仲村さんに会いに行くのです。

そのラストシーンはぜひ括目して自分の目で確かめてください。

 

春日くんは救われた。

佐伯さんも救われた。

「今の」仲村さんも救われた。

 

ただ、「あの日の」仲村さんだけが救われないのだ。

永遠に。

 

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reiji(れいじ)

長野県に住む24歳FtXブロガー。
生きづらい日々を生きやすく、つまらない人生を楽しくするためのノウハウを展開中。
映画、漫画、SF小説が大好き。

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